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あれはずいぶん昔だったなあ、 小さな岩は思いました。
小さな岩が覚えていないくらい昔のことでした。小さな岩はため息をついて、もう一度よーく考えてみました。
この前動いたのはいつだったっけ? この前水につかったのはいつだったっけ? 僕のまわりは古い岩ばかり。もう見飽きちゃったよ。ちがう岩を見たのはいつだったっけ? |
小さな岩は思い出すこともできません。それほど遠い遠い昔のことだったのです。
小岩ちゃんは思い出しました。それは、ずっと、 ずうーっと昔、 小岩ちゃんが見晴らしのいい山の上にいて、ずっと遠くまで見渡せたときのことでした。
ああ、あのときは楽しかったなあ!風くんが吹いてきたし、日が昇ってそれから沈んでいくのも見えたっけ。 あれは、みんなが生まれたばかりのころだったなあ。ぼくたちは、勢いよく空に向かって飛び跳ねて、まわりの大きな岩たちは、世界の始まりの賛歌をうたっていたなあ!
でも、幸せだった小岩ちゃんは、それから少しずつ山をずり落ちていったのです。風さんが吹きつけ、地面が時々ゆれたためでした。こうして小岩ちゃんは、気持ちのよかった山の上からだんだん離れていったのです。それは悲しい出来事でした。 |
小岩ちゃんはどんどん落ちて、ある日、べとべとに濡れた河床にたどり着きました!
泥は冷たくて、とってもいい感じでした! 日の入りは見えなかったけど、泥はやわらかでどこにでもころがっていけるので、小岩ちゃんはここがとっても気に入りました。 | |
ある日、水くんが小岩ちゃんの上に押し寄せました。水くんの感じはとってもすべすべしていて、生き返るようでした。こんな感じは、昔、風くんがなぜてくれたとき以来です。水は小さな岩を転がして押し流しました。 |
昔、風くんは砂を飛ばしてきて岩にかぶせましたが、水くんは小さな岩のごつごつしたでっぱりをやさしくなぜて、すべすべにしました。小岩ちゃんは水くんがとっても気に入り、山の上にいたときのように幸せになりました。
水くんはだんだん少なくなり、泥はだんだんかわいてきました。すると、小岩ちゃんのいるところもだんだん居心地が悪くなってきました。しばらくすると、水くんはまったく来なくなってしまいました。小岩ちゃんは水くんが来なくなってから、もう何年もたったことに気がつきました。水くんはどこへ行っちゃったの? |
水くんが来なくなってからというもの、小岩ちゃんは、そこにじっとしているだけでした。時々風くんがふいてきて、小岩ちゃんのからだをなぜていくほかは、何も起きませんでした。
| 小岩ちゃんは そこに じっとしているだけでした。 次にどんなことが起きるか 考えながら。 |
ある日のことです。信じられないことが起きました!! それは夜の出来事です。小岩ちゃんはねむれなくて、ぼんやり空を見上げていました。真っ暗な夜空は一面、小さな星の海でした。小岩ちゃんのまわりには他の岩もありますが、ちっとも動かないでじっとしているだけなので、ちっともおもしろくありません。でも、夜の星空は毎晩少しずつ変わりました。小岩ちゃんは、夜空をながめているときが一番幸せでした。
そのときです。1つの星が急に明るくなって小岩ちゃんの方へまっすぐ向かって来るではありませんか!
あれ何だろう?時々空から落>
。 地面にいる岩にぶつかるかも知れないぞ。 僕のところに落ちてきたらどうしよう!! |
そのとき、おかしなことが起きました! 落っこちてくる光が、上下2つに割れたのです。上の光は白い帽子みたいで、下の部分は何か長いひもみたいなものにぶらさがっているようでした。小岩ちゃんがこんな変なものを見たのは、初めてです。すると次に、下の部分が、さらに2つに分かれたではありませんか!そしてさらに、一番下になった部分が急にふくらんだのです! | まん中から火花が飛び散り、ひもが切れてふくらんだ空の石は落ち始めました。まっすぐ小岩ちゃんの方へ! |
わあ!ぶつかってくる!小さな岩は大声をあげました。ふくらんだ石は急降下して | ||||
はずんだ! | 石がはずむなんて!こんなの見たことないし、信じられない!!ふくらんだ石は空高くはね上がっていきました! |
| なんだこれ! 小岩ちゃんは考えました。 *僕も* 空にはね上がれたらいいなあ!!小さな岩は、びっくりして見ていました。 |
ふくらんだふくれ岩は高く高く高くはね上がり、それから空中に止まり、それから....、わあー!また落ちてくる!!小さな岩は、また怖くなりました... 今度こそぶつかってくるのかなあ?? | ふくれ岩は小岩ちゃんの方へ一直線に向かってきて、わずか数センチ離れた地面にぶつかってまた飛びはねました! |
あっ、これすごくおもしろいや!!!ふくれ岩が来てくれてよかったなあ!ずっと見ていたら僕も飛びはねられるようになるぞ!小さい岩はこう思いました。
ボーン! ボーン! ボーン! ボーン! ボーン! ボーン! ボーン!
はずみ方はだんだん低くなって、しまいに、ふくれ岩は転がって止まりました。 わあー、うまいうまい! 小さな岩はつぶやきました。 |
こうしてふくれ岩は、ほかの岩のようにそこに落ち着いてじっとしました。
いやあ、とっても楽しかったな。小岩ちゃんは思いました。
でも、小岩ちゃんは気がつきました。水くんが来たときはまわりの岩たちを動かしたり、ぬらして涼しくしてくれましたが、ふくれ岩はそういうことはしないのです。 | ふくれ岩くんは僕たちを跳ねさせてはくれないよ、きっと。この変な岩は僕たちとおんなじように、ここにただじっとしているだけなんだろうな、ずうーっと。 |
何十年も... 何百年も... 何千年も!!
しかし、小岩ちゃんが、まわりの世界はまた元通りに戻るのかと思っていたとき、ふくれ岩から音が聞こえてきました。ふくれ岩が *縮んでいるのです* ! そう、小さな岩は幻覚を見ていたわけではなかったのです。ふくれ岩は、本当にどんどん縮んでいたのです!! 変だなあ。小岩ちゃんは思いました。 本当に変な岩だなあ。こんなの誰も見たことないよ!!
小岩ちゃんは、新しい隣人に見とれてしまいました。 このふくれ岩はどこまで縮んでいくんでしょう?しまいには、ふくれ岩は縮んで、もうふくれ岩じゃなくなってしまいました!ふくれ岩は縮んで うなだれた ようになってしまいました。 ふくれ岩じゃなくて、うなだれ岩になってしまったのです! これ以上変になれないくらい変になったと思ったら、さらに別なことが起きました。うなだれ岩のてっぺんから何か小さいものが突き出てきたのです!あたりはまだ暗かったので、小岩ちゃんは何が突き出てきているのか見えませんでした。 何かがてっぺんから突き出てきたということだけしか分かりませんでした。
これは、どういう種類の岩なんだろう? 小さな岩は、何がなんだかわからなくなりました。小岩ちゃんが知っているのは、風くん、水くん、山さん、砂さん、それにほかの岩くんたちだけだったのです。いま起きていることは、小岩ちゃんが知っていることとはぜんぜんちがうのです!小岩ちゃんは、起きていてよかったと思いました。今ここで起きていることがぜんぶ見れるのですから。
たぶん、日が昇ったら、ふくれ岩、じゃなくって、うなだれ岩がもっとよく見えるぞ。そうしたら、いったいぜんたい何が起きているのかわかるぞ!! |
マーズパスファインダーチームに捧ぐ。小さな岩から感謝をこめて!
物語とイラスト: Sue Kientz
Story and Illustrations by Sue Kientz
訳: 金井盛昭
Translated by Moriaki Kanai